1. 同じ「600万円」でも中身は別物
今回はSNSで語られる「フリーランスエンジニアは搾取から外れ、自由で豊かである」という理想と、実際の「手取り額」のギャップについて。
現在正社員で年収400万円以下でも独立すればフリーランスの会社員では到達が難しかった額にすぐたどり着きます。
しかし見方を変えると物事にはやはり違った側面に気づきます。
会社員にとっての600万円は「経費を引かれた後の利益」に近い性質を持ちますが、フリーランスにとっての600万円は、経費や税金をすべて自分で支払わなければならない「売上」です。
十分なスキルがないうちに安易な独立で「実質的な減収」を招かないようシミュレーションを見ていきましょう。
2. 「年商」と「年収」
SNSで語られる「月収」は、正確には「売上」であることがほとんどです。
- 会社員の年収600万円: 社会保険料や税金が引かれ、月38万円ほどで、会社の売り上げは月75-80万円ほど。
- フリーランスの年商600万円(売上月50万円×12か月):以下が引かれ、 月39万円ほどです。
- 社会保険料(全額自己負担)で約7万円※国民健康保険(約5.5万)+国民年金(1.7万)
- 所得税・住民税で約3万円※青色控除適用後の年間税額を12分割
- インボイス、個人事業税で約1万円※2割特例適用時(売上の2%相当)
1.月商50万円(年商600万円)フリーランスの月額収支例
以下でシュミレーションしてみます。
38.5万円×12か月で462万円。正社員時代の年収400万円を大きく上回るため、良さそうに思えます。
| 項目 | 月額ベースの推移 | 算出根拠・備考 |
| ① 売上(月商) | 500,000円 | SNSで「月収50万」と言われる数字 |
| ② 社会保険料 | ▲72,000円 | 国民健康保険(約5.5万)+国民年金(1.7万) |
| ③所得税・住民税 | ▲30,000円 | 青色控除適用後の年間税額を12分割 |
| ④ 消費税(インボイス) | ▲10,000円 | 2割特例適用時(売上の2%相当) |
| ⑤ 個人事業税 | ▲3,000円 | 所得290万超の部分への課税を12分割 |
| 月収 | 約 385,000円 | ① - (②〜⑤の合計) |
2. 同じ年収の正社員と同じ契約単価をとれるか
「そもそも年収600万円の正社員は幾らの単価?自分も年収(年商)600万円になったのだから、社員と同額の単価に入ればもっと年収は上がるのではないか」と思う方もいると思います。
年収600万円の正社員は単価75-80万円ほどで契約をしており、業務内容としては5名以上の規模のチームで基本設計を一人称で対応できることが求められます(要件定義まで経験があるとこれ以上も確度高い)。
主な成果物としては以下で、業務やシステム機能を階層的に分解し、全体構造を整理する「何を作るか」を構造化するほどのスキルが求められます。
①要件定義フェーズ
→ 業務フロー図(As-Is / To-Be)
→ 3階層構造図(業務整理レベル。)
②基本設計(外部設計)フェーズ
→ 業務フロー図(システム化後)
→ 3階層構造図(機能分解)
→ シーケンス図(概要レベル)
③詳細設計(内部設計)フェーズ
→ シーケンス図(処理ロジック詳細)
【3階層構造図(業務・機能分解)】
工程:要件定義〜基本設計
目的:業務やシステム機能を階層的に分解し、全体構造を整理する。「何を作るか」を構造化すること
・要件定義での役割
→業務を漏れなく洗い出す(業務整理)
→スコープ定義
・基本設計での役割
→機能一覧のベース
→画面/機能設計のインプット
【業務フロー図(BPMN / UMLアクティビティ図)】
工程:要件定義(メイン)+基本設計
目的:「業務がどう流れるか」を定義すること
・要件定義(As-Is / To-Be)での役割
→現行業務の可視化(As-Is)
→改善後業務の設計(To-Be)
→課題抽出
・基本設計での役割
→システム化後の業務フロー
→ユーザー操作とシステム処理の整理
【シーケンス図(UML)】
工程:基本設計〜詳細設計
目的:「処理がどう動くか」を時系列で表すこと
・基本設計での役割
→システム間のやり取り
→主要処理の流れ(外部仕様レベル)
・詳細設計での役割
→メソッド/処理単位の詳細な呼び出し
→例外処理や分岐も明確化
ここまで対応できれば、正社員と同じ額(単価75-80万円)で契約をとれる可能性があります。
3. それでも正社員よりは年収UPができるのでよいのではないか
大規模案件の設計はできないが、コーディングだけで単価80万円で設計までしている正社員より稼げるのだから、良いのではないかと思われます。
本当にそうでしょうか。
AIによって下流工程は淘汰されていく可能性が高く、今ある案件が未来もあるとは思えません。
現在、フリーランスから社員に戻りたくても年齢とスキルが見合わずお見送りになるケースが非常に増えています。
フリーランスの年商600万円は単価50万円、正社員なら400万円以下のスキル感です。
戻るに戻れなくなるケースは今後はますます増えるでしょう
会社は今まで積み上げてきた実績や絶対に”飛ぶ”ことがないという信頼で、案件を獲得しています。
先輩が積み上げてきた実績があるから個人では参画が難しい案件も経験ができ、キャリアアップに繋がります。
フリーランスは営業も事務もすべて自分でこなさなくてはならず、エンジニア以外の仕事をしなくてはなりません。
仮にエージェントを使えば準委任契約で参画することとなり、今までと何も変わりません。
50万円ほどの年収アップで案件が途切れるリスク、キャリアアップできないリスクを負うことになります。
年収が低いことが理由でフリーランスを目指す場合、フリーランスとして生き残るスキルが自分にあるか、見直してからが良いでしょう。
3.生存者バイアス
SNSでフリーランスになろうと発信しているのは、大きく二つ。
- ハイスキルエンジニア: 技術力と交渉力があり、本当に高単価と自由を両立しているアカウント。何の問題もない方。
- スクールやコンサル、フリーランスエージェントの勧誘: 「自由・高年収」を餌に、年収に悩むエンジニアを集めるためのマーケティングアカウント。
特に派手なのは後者で、組織的に運営されており年収が上がらないことに悩むエンジニアを利用し、マネタイズしようとしています。
1.「売上」と「利益」のあえての混同
多くは税金や保険料を引く前の「売上」で語ります。
ここから消費税、社会保険料、所得税、事業経費を差し引くと、手元に残る現金はさして多くないことを上記で述べました。また可視化されないリスクもあります。
2.「場所の自由」と「高単価」のトレードオフ
極端な例ですが「南の島でサーフィンしながら空き時間にリモートワーク」と「高単価案件獲得」の両立は、実は非常に難易度が高いのが現実で、よほどの信頼を積み重ねた実績がなくては難しいです。
- 高単価案件: 責任が重く、セキュリティの観点から「国内居住・自宅(カフェNG)・JST(日本時間)勤務」を求められることがほとんどです。
- 完全自由案件: 切り出しのタスク型案件が多く、単価が低くなりがちです。
4.最後に
現年収400万円ほどでは独立しても未来があやういと、足がすくむ思いをした方もいるかもしれません。
しかし、「自分自身の価値を最大限還元する」ことこそが、フリーランスの真髄でもあります。
計画的に、そして戦略的にフリーランスへの道を切り拓くために、最後に3つの問いを自分に投げかけてみてください。
1.同業フリーランスに負けないスキルがあるか
フルリモート案件は、今やエンジニアにとって標準的な選択肢となりました。
しかし、地方や海外から働く「完全な自由」を得るためには、単価交渉力や高い自己管理能力がセットで求められます。
「どこでも働けるエンジニア」は「どこにいても成果を出せる、人に負けないハイスキルを有するエンジニア」です。
2. 「案件」という名のキャッシュフローを自ら作れるか
あなたに給与を払う責任のある組織はありませんので、受け身ではなにも始まりません。
エージェントを介すのか、SNSで発信するのか、あるいは過去の人脈を掘り起こすのか。
自分の技術を「商品」として言語化し、適切な市場に売り込む「営業感覚」が、独立後の生存に直結します。
3. フリーランスは「手段」であって「目的」ではない。「スキルアップ」を事業投資として考え、継続できるか
フリーランスは自分自身が経営者。
生き残るには 緻密な収支計画、市場価値の客観的な把握、そして学び続ける覚悟が必要です。
学習時間は「無給の時間」ではなく、将来の単価を上げるための「設備投資」です。
日進月歩の技術トレンドを追い、常に市場価値を更新し続ける。
このサイクルを自走できる人だけが、SNSで語られる「自由」を、現実のものとして掴み取ることができるのです。

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