【データで紐解く】なぜ「中堅エンジニア」の採用は至難なのか?数千人を2万社で奪い合う構造について

エンジニア不足といわれる昨今、IT業界に身を置く人であれば、エンジニア採用の難しさを耳にしたことがあると思います。しかし一方で未経験者・ロースキルエンジニアの転職は難しいという声も聞こえてきます。

つまり単なる「人数不足」ではなく「基本設計以上の経験を持ち、モダンな技術スタックを扱える、キャリア5年分以上の中堅エンジニア」を各社が奪い合っている構図です。

今回は、インターネット上の公開データや協力会社から提供された情報を基に、エンジニアの労働人口を独自に推計しました。なぜ中堅エンジニアの採用がここまで困難を極めるのか解き明かしていきます。


1. 日本のITエンジニアその「実数」と「分布」の推測

まず、日本全国にITエンジニアがどれほど存在し、どのような構造で働いているのかを整理します。

エンジニアの総数と所属

現在、日本全国のエンジニア総数は約150万人と推定されます。このうち、客先常駐やプロジェクト支援を行う「SES(システム・エンジニアリング・サービス)」に従事する比率は約70%に達します。

項目数値(推定)
エンジニア総数(全国)1,500,000人
SES従事比率70%
SES従事エンジニア数1,050,000人

さらに、この105万人を抱える「SES企業」の数は全国に約20,000社存在します。企業の規模別構成比を見ると、そのほとんどがいわゆる「小規模事業者」であることがわかります。

SES企業の規模別構成と在籍人数の推測

(全体:20,000社 / エンジニア 1,050,000人)
以下の表は、SES企業20,000社の内訳と、そこに在籍するエンジニアの分布を簡易推測したものです。
特筆すべきは、全体の7割を占める14,000社が小規模企業であるという点です。
中堅エンジニアは皆が欲しいので、市場には数万件の求人が溢れることになり、小規模SESが中堅エンジニアを採用できる可能性は非常に低いです。

この推計では、上位10%の企業(2,000社)が、エンジニア全体の約68%を雇用している計算になります。
これは、SES業界が「大規模な元請け」と「無数の小規模な二次・三次請け以降」に二極化している実態を統計的に裏付けています。

企業規模(従業員数)社数構成比推定社数平均従業員数平均エンジニア数(10%本社人員)合計エンジニア数
超大手 (1,001人〜)0.5%100社2,880.7人2,592.6人259,260人
大手 (301〜1,000人)2.5%500社528.1人475.3人237,650人
中堅 (101〜300人)7.0%1,400社172.8人155.6人217,840人
準中堅 (31〜100人)20.0%4,000社52.8人47.5人190,000人
小規模 (1〜30人)70.0%14,000社11.5人10.4人145,600人
合計 / 平均100.0%20,000社58.3人52.5人1,050,350人*

*:フィッティングによる微差。本表は、総社数20,000社およびエンジニア総数1,050,000人というマクロ統計を母数とし、対数正規分布モデルを用いて各階層へ確率的に割り振った推計値です。計算過程で生じる小数点以下の四捨五入および階層ごとの平均値の丸め処理により、合計値に 0.03% 程度の微差が生じています。

[おまけ]

企業の規模分布は「正規分布(左右対称の山型)」ではなく、極端な偏りを持つ「べき乗則」に従います。
今回の推計において、どのような統計的手法とロジックを用いたのか、その裏側を簡単に解説します。

1. 「べき乗則」による階層化

企業の従業員数分布は、一般的に「パレートの法則(80:20の法則)」に近い挙動を示します。
これは「全エンジニアの約8割を、上位2割の企業が雇用している」という仮説に基づきます。
今回の推計では、日本の経済構造に適合するよう、この比率をSES業界の特性に合わせて微調整し、上位約10%の企業(2,000社)が全エンジニアの約70%弱を占めるモデルを採用しました。

2. 対数正規分布(Lognormal Distribution)の適用

「平均的な会社」を算出する際、最も信頼性が高いのが対数正規分布です。

  • 特性: 0以下の値を取らず、右側に非常に長い「裾(テール)」を持つ分布です。
  • SES業界への当てはめ: 数千人規模の「超大手」が平均値を大きく引き上げる一方で、実際の「最頻値(最も数が多いボリュームゾーン)」は10名〜20名規模に集中します。この「平均値と中央値の乖離」を統計的に処理することで、14,000社にのぼる小規模企業の平均数(10.4人)を導きました。
3. 本社人員比率10%の定数分離(エンジニア純度の特定)

SES企業の売上構造は「稼働人数 × 単価」で決まるため、間接部門(非エンジニア)をいかに最小化するかが経営上の肝となります。
今回のモデルでは、統計的な簡略化として「エンジニア比率 = 0.9(90%)」という定数を設定しました。
これにより、現場で価値を生む「実数」としてのエンジニア数を階層ごとに算出しています。

4. 逆算型・総数フィッティング(トップダウン・アプローチ)

個別の企業データを積み上げる「ボトムアップ」ではなく、マクロ数字(20,000社・105万人)を固定した状態から、統計分布の関数を用いて各階層に割り振る「トップダウン・フィッティング」を行いました。
これにより、合計値の整合性を保ちつつ、業界の実感値に近い「歪なピラミッド構造」が可視化できました。


2. 経験年数別の人口動態

以下はエンジニア数推移です。

エンジニア数
1985年32万人
1990年55万人
1995年60万人
2000年77万人
2005年81万人
2010年90万人
2015年99万人
2020年109万人
2025年150万人

以下は1985年からのエンジニア人口推移を基に、2025年時点での「経験年数(キャリア歴)」の分布を予測しました。
毎年5%が引退や離職で減少していくと仮定しています。

2025年:経験年数別現役エンジニア数の推測

さて、企業が最も欲しがる「5年以上の経験者で50歳以下」は、どれほどいるのでしょうか。

経験年数推定年齢現役エンジニア数
0〜5年20歳〜25歳386,475人
6〜10年26歳〜30歳65,319人
11〜15年31歳〜35歳46,322人
16〜20年36歳〜40歳32,259人
21〜25年41歳〜45歳19,539人
26〜30年46歳〜50歳35,386人
31年以上51歳以上42,130人

昨今の「エンジニアブーム」により、経験5年未満の若手層は約38.6万人と非常に厚くなっていますが、企業が積極的に採用したい6年以上経験のエンジニア数は19.8万人です。


3. 採用市場の実態

次に、求人媒体に掲載した際、実際にアプローチできる数はどれほどでしょうか。
求人媒体に登録している転職顕在層は6%、機会があれば転職したい潜在層は61%とすると約2.3万人が転職顕在層と考えられます。

求人媒体のデータから見える「本当に企業が求めるエンジニアの数」

さて、エンジニア経験者であれば誰でも採用されるのでしょうか?
複数の大手求人媒体のデータを比較すると、ターゲットとなるエンジニアの希少性がより鮮明になります。
レガシー言語(COBOL,VB系)やネットワークエンジニアは案件も少なく、企業は獲得に消極的です。
エンジニア転職市場において、Java,PHP,Golang,Ruby,Python,フロントエンドエンジニア、スマートフォンアプリエンジニア、クラウドインフラエンジニアが求められる傾向にあります。

  • 媒体A(登録約100万人:エンジニア特化媒体。プロジェクトマネージャー・バックエンドエンジニア・スマートフォンアプリエンジニア・フロントエンドエンジニア・クラウドインフラエンジニア、歴5年、アクティブユーザー(1ヶ月以内のアクション有)は2,619名。
  • 媒体B(登録300万人):登録エンジニア数28万人。SE(Web・オープン系)、フロントエンドエンジニア、スマートフォンアプリエンジニア、プロジェクトマネージャー(Web・オープン系)、プロジェクトリーダー(Web・オープン系、 5 年 以上、アクティブユーザー(1ヶ月以内のアクション有)は273件。
  • 媒体C(登録9万人):サーバーサイドエンジニア、フロントエンドエンジニア、Androidエンジニア、iOSエンジニア、システムエンジニア、プログラマ、フルスタックエンジニア、アプリケーションエンジニア、クラウドエンジニア、プロジェクトマネージャー、プロジェクトリーダー、アクティブユーザー(1ヶ月以内のアクション有)は2124件。

上記は年齢不問、経験職種でヒットした数。特定言語に絞ると1/10になります。

「ターゲット実数」の算出

IT企業が欲しい「レガシー言語(COBOLやVB系)を除いた、設計経験5年以上のエンジニア」を、前述の推測から絞り込んでみましょう。

  1. 即戦力候補(歴6〜30年):約19.8万人
  2. 転職顕在層(今すぐ動く6%):約2.3万人
  3. レガシー・年齢・スキル合致(1/10):約2千~5千人

エンジニアが転職時に利用する経路は、求人媒体以外にリファラルやエージェントもあります。
掲載型媒体以外も含めたとしても、「多くのIT企業が欲しがる転職活動中のエンジニア」は全国に1万人以下しか存在しないとされます。

この1万人を、2万社のSESとSIerや事業会社で取り合っているのです。
1社に1人も行き渡らないのは、当然の結果と言えます。


4. 「未経験」「シニアOK」の求人の実態

求人サイトを開くと、「未経験歓迎」「50代・60代活躍中」といった見出しが躍っています。
なぜこれほどまでに極端な訴求が増えているのでしょうか。

答えはシンプルで「その層しか採用できないから」です。先ほどの推計表を思い出してください。

  • 0〜5年:約38.6万人(未経験・若手)
  • 31年以上:約4.2万人(50歳以上)

この層は人口が多く、かつ転職市場においても「中堅層」ほど激しい争奪戦に巻き込まれていないため、採用の難易度が相対的に低いのです。
しかし、ここにはSESにおける大きな落とし穴があります。

多くのSES企業が、採用しやすい「ロースキル層」を大量に採用しますが、彼らを配属できる「開発現場」が不足しています。
AIの進化で製造(コーディング)しか強みがないエンジニアは代替されていきますから、結果として、ITエンジニアとして採用されたはずが、「キッティング(PC設定)」「カスタマーサポートやコールセンター」といった、将来のキャリアに繋がらない現場へ送られてしまうケースが後を絶ちません。

また、歴31年以上のベテランであっても規模数名の小規模案件の軽微な追加改修やテスター、QAエンジニアとしてロースキルのキャリアを強いられてきた場合、エンジニアバブルだからと言ってフルリモート案件へのアサインは見込めません。
当然フルリモート案件はスキルの高いエンジニアが優先されます。
彼らよりも高い評価を得られなければ、仕事があればマシといった状況で低い給与でフル出社を求められる事態は避けられないのです。

エンジニアの市場価値は年数よりも難易度の高い案件をどれだけ経験してきたかを問われます。


5. イズム目指す、エンジニアの「幸せ」について

こうした転職市場の歪みの中で、私たちイズムが大切にしているのは、「シニアになっても若手に負けないキャリアを積める案件にアサインする」という強い意志です。

スキルにならない現場にはアサインしない

採用のしやすさだけを見てロースキルを大量採用し、スキルにならない案件に送り込むことはしません
若手であっても「市場価値の高い中堅層」へ成長できるよう、必ず開発工程や設計に関われる案件を厳選しています。

エンジニアとしてシニア(50代以上)になった時、若手に技術力や単価で負けてしまうのは、20代・30代の頃に設計能力や技術を磨く機会を奪われたことが原因です。

エンジニアの未来を守るために

  • 設計フェーズへのこだわり:単なる製造担当で終わらせないキャリアパスを描く
  • レガシーからの脱却:10年後も通用する言語・フレームワークへの挑戦機会
  • 個人の市場価値を最大化:どの会社に行っても通用するエンジニアの育成

エンジニアの増加数を見れば、今後さらに「供給過剰なロースキル」と「枯渇するミドル・ハイスキル」の二極化が進むことは明白です。


6. 最後に

今回のデータ推計が示す通り、中堅エンジニアの採用は多くのSESには困難です。
SES企業に求められるのは、「エンジニアの10年後のキャリアをどう担保するか」という誠実な姿勢です。
そしてエンジニア側に求められるのは、「自分がどの層に属しており、将来どの層を目指すべきか」という冷静な自己分析ではないでしょうか。

私たちは、エンジニアがシニアになっても第一線で活躍し続け、幸せな一生を送れるよう、これからも「質の高いアサイン」と「キャリア形成」に妥協することなく向き合っていきます。

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