【年収570万円のはずが500万円に】SES会社内定時に潜む「残業前提の水増し提示」の見分け方と自衛策

「内定通知書に書かれた想定年収は570万円。560万円オファーの他会社より10万円も高いからそっちにいこう!」

そう喜んで入社を決めたものの、実際に働き始めてみると毎月の手取りが想像と違う……。
実はこれ、SES(システムエンジニアリングサービス)業界の転職で非常に多く発生しているトラブルの一つです。

求人票や内定提示書に記載されている「想定年収」。
その内訳を細かく紐解いていくと、実は「必ず残業を行うこと」を前提に水増しされた金額だったというケースが後を絶ちません。

なぜSES業界ではこのような提示方法が横行しているのでしょうか?
そして、エンジニアは提示された内定通知をどう見極めれば良いのでしょうか?

今回は、SES業界における「残業前提の年収提示」の構造的なカラクリから、ブラックな求人を見抜くチェックポイント、内定時に確認すべき自衛策までを徹底解説します。

想定年収570万円の「想定」について

まずは「想定年収570万円」のモデルケースを例に挙げ、その構造をみてみましょう。

A社から提示された内定条件が以下のようになっているとします。

  • 提示された想定年収: 5,705,140円
  • 月給: 362,750円(基本給:259,000円+諸手当:103,750円)
  • 賞与: 年2ヶ月分(725,500円)
  • 想定残業時間: 月20時間(残業代:月52,220円×12ヶ月=626,640円)

一見すると、「基本給+手当+賞与+適正な残業代」で構成された、基本設計クラスのエンジニアなら比較的魅力的な条件に見えます。
しかし、ここで注目すべきは「残業代が年間で約63万円組み込まれている」という点です。

もし、プロジェクトが順調で残業が「ゼロ」だった場合、あるいは効率よく仕事をこなして定時帰宅を続けた場合、実際の年収はどうなるでしょうか?

  • 確定部分(月給12ヶ月+賞与2ヶ月): 5,078,500円

つまり、この提示金額の実態は「ベース年収は500万円程度であり、毎月20時間の残業を12か月繰り返して初めて570万円に届く」という条件です。

もちろん、働いた分の時間外手当が正しく全額支給されること自体は法律上まったく問題ありません(むしろ適法で健全な処理です)。
しかし、求職者側が「残業をしなくても年収570万円もらえる」と誤認してしまうような提示方法をしている企業が多いことが、問題の根幹にあります。

「残業前提の年収提示」を行う会社側の事情

なぜ多くのSES企業は、ベース年収(残業ゼロの年収)ではなく、あらかじめ残業代を乗せた高めの「想定年収」を提示してくるのでしょうか。そこには構造的な事情や採用戦略が存在します。

1. 競合他社との「見映え勝ち」をするため

中途採用市場において、設計工程まで対応できるエンジニアは喉から手が出るほど欲しい存在です。
各社が魅力的なオファーを出そうと凌ぎを削る中、同じスキル感のエンジニアに対して以下の2社が提示を出したとします。

  • A社: 年収 508万円(残業0時間で計算)
  • B社: 年収 570万円(月20時間の残業を含めて計算)

求職者が年収の「総額」だけを比較した場合、圧倒的にB社の方が魅力的に見えてしまいます。
実際にはどちらも「ベースの給与水準は同じ」であるにもかかわらず、です。
このように、他社との採用レースで選ばれるために、見映えの良い数字を作らざるを得ないという背景があります。

2. 常駐先と自社の「所定労働時間のズレ」を利用している

SESならではの特殊な事情として、自社と派遣先(常駐先)の「所定労働時間の差」があります。

  • 自社の定時: 1日7.5時間(週37.5時間)
  • 常駐先の定時: 1日8.0時間(週40.0時間)

IT業界では自社の所定労働時間を「7.5時間」に設定している企業が珍しくありません。しかし、クライアント企業(常駐先)の多くは「8時間」稼働です。

この場合、常駐先の定時(8時間)に合わせて毎日普通に働くだけで、自社基準では毎日0.5時間(月20営業日で10時間)の残業が自動的に発生します。企業側としては「大抵の案件では毎月10〜20時間の残業代が発生するから」という理由で、最初からその金額を年収に組み込んで提示するテクニックもあります。

3. 基本給を抑えて会社の固定費リスクを下げたい

残業代水増し提示をする企業の中には、あえて基本給を低く抑え、手当や残業代で月給を膨らませようとする会社も存在します。

基本給を低く設定しておけば、業績が悪化した際や案件が途切れた際(待機期間中)の会社側の固定費負担を減らすことができます。
また、賞与(ボーナス)の計算基準が「基本給」になっている企業の場合、基本給が低いとボーナスの支給額も自動的に抑えられるという、企業側に有利な構造が生まれるのです。

入社後に後悔しないために、内定時の確認アプローチ

内定通知書やオファー面談の際、数字の見た目に惑わされず、提示条件の「真実」を見極めるため方法を解説します。

ステップ1:「確定年収(残業ゼロの場合)」を自分で計算する

内定をもらったら、提示された金額をそのまま鵜呑みにせず、以下の計算式で「最低保障される年収」を算出してみましょう。

確定年収 =( 基本給 + 毎月確実に支給される手当 )× 12ヶ月 + 確定賞与

もしこの計算で出た金額が自分の希望額や前職の年収を大きく下回るようであれば、その求人は「残業代で年収を盛っているだけ」ということになります。

ステップ2:面接・オファー面談で3つの質問をする

提示条件に少しでも疑問や不安がある場合は、入社承諾の前に企業へ以下の質問を投げかけてみましょう。聞き方を工夫すれば、角を立てずにクリーンな回答を引き出すことができます。

  1. 「配属予定の部署や、自分と同レイヤーのエンジニアの方の『直近の平均残業時間』は月何時間くらいですか?」
    • → 提示された想定残業時間(20時間など)が、現場の実態とかけ離れていないかを確認します。
  2. 「仮にプロジェクトの都合で残業がゼロ(0時間)だった場合の、年収(固定支給額)はおいくらになりますか?」
    • → ベースとなる確定年収を企業側に直接クリアにしてもらいます。誠実な企業であれば、嫌な顔をせず「残業ゼロの場合は〇〇万円になります」と答えてくれます。
  3. 「賞与(ボーナス)の算定基準は、基本給ベースですか?それとも手当を含めた月給ベースですか?」
    • → 年間賞与の計算根拠を確認し、想定年収の数字にズレがないかを検証します。

数字の「中身」を見極めて、納得のいくキャリア選択を

もちろん、イズムではこのような水増しオファーは一切行いません
20時間のみなし残業代を設定していますが、エンジニア社員の平均は月7時間。
残業時間ゼロでも支給額が一切減ることはありません。

SES業界におけるオファーが「稼働時間を考慮した、誠実で透明性の高い試算金額」なのか、それとも「必ず発生する残業代で見た目だけを繕った、基本給の低い水増し金額」なのかによって、入社後の満足度は天と地ほど変わります。

転職活動において大切なのは、表面上の「想定年収」という大きな数字に飛びつくのではなく、その内訳である「基本給の高さ」「手当の性質」「残業代の支給ルール」をロジカルに分解して評価することです。
条件の根拠をうやむやにせず、クリーンに開示してくれる誠実な企業を見極めてください。

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