2026年4月、日本の労働市場に激震が走りました。RIZAPグループが、グループ全体の約1割に相当する約500人の従業員を、新会社「RIZAP建設」へと段階的に配置転換するという発表です。
一見すると「本業が苦しいのか?」と考えられそうですがその背景には、より戦略的な事業展開と労働環境の課題解決があるとのことです。
一般的に就業規則において職種限定合意がある場合、労働者の同意なしに職種変更を伴う配置転換は原則として不可とされております。契約時に「プログラマー」「システムエンジニア」として技術職に限定して雇用されている場合、本人の同意がない限り、全く異なる職種(建設、清掃、運送など)への配置転換は命じられません。
しかしモラルを欠いたSES企業は未だに数多く、SESが忌避される原因となっています。
ライザップのケースがエンジニアに対する配置転換の正当化につかわれないか、考えたいと思います。
1. ライザップの「正攻法」:なぜ建設現場なのか?
まずライザップについて述べますが、経営学的に極めて合理的に見えます。
現在、AIの導入により同社グループのバックオフィス業務は20%以上削減され、chocozapの無人化モデルによってビジネスモデルは「高単価でトレーナーがマンツーマンで指導する専属ジム」から「低単価で、基本的にトレーナーが店舗に常駐しない自由なジム」へ変わりました。
このビジネスモデルの転換により、グループ全体で「マンツーマン指導を行うトレーナー」の需要が以前ほど爆発的に増えなくなっています。一方で、教育された優秀な人材を解雇するのではなく、「体が資本」という共通点を持つ別の高収益市場へ活用しようとする狙いから、余剰となったスタッフを解雇せず人手不足が顕著な「建設市場」へスライドさせたように思います。
- 高いニーズ: 建設現場では「若くて体力があり、規律を守れる人材」が喉から手が出るほど求められています。
- ライザップの強み: ライザップのトレーナーは、厳しい研修を経て「礼儀」「コミュニケーション能力」「自己管理能力」を叩き込まれています。単なる肉体労働者としてだけでなく、現場の士気を高める「現場管理の補助(施工管理見習いなど)」としても即戦力として評価が高いです。
また、ジムトレーナーという職業は、体力的なピークや将来のキャリアパスに不安を抱えやすい職種です。
- 収益性の改善: パーソナルジムの市場は競争が激化し、飽和状態にあります。一方、建設現場への派遣(施工管理などの高度な役割を含む)は、人手不足から単価が高く設定される傾向にあります。手不足で単価が高騰している建設業界(特に施工管理や専門技能職)へ、教育体制が整った自社人材を送り込み、「IT×フィジカル」のハイブリッド人材として活躍させる狙いです。
- 安定した雇用: 建設現場での経験を積ませることで、トレーナーに「フィットネス以外のスキル」を身につけさせ、会社として多角的なキャリアを用意しようとしています。
「解雇」ではなく「新産業への挑戦とリスキリング」という大義名分を掲げ、上場企業としての社会的責任(雇用維持)と収益性を両立させており、教育コストを投じて人材の市場価値を変換する上場企業としての「光」の側面と言えます。
しかし、このロジックがIT業界、とりわけ「人」を商品としか見ていないアンモラルなSES企業に転用されたとき、どうなるでしょうか。
2. 「ライザップ流」を悪用するアンモラルなSESに関する予言
アンモラルなSES企業は、ライザップの事例を「リスキリング」という美名で包装し、エンジニアのキャリアを破壊する免罪符として利用し始めるでしょう。
① 「ITエンジニア」の看板を掲げた「実質ブルーカラー」への強制移管
これまでジュニア層の主な仕事であった「指示書通りのコーディング」「テストコードの作成」「簡易的なデバッグ」は、AIが最も得意とする領域です。
AI普及で、ジュニアをアサインするコストが「AIの利用料」に勝てなくなっています。
案件がないSES企業は、待機コストを削るためにライザップの真似事(=職種転換)を始めるでしょう。
「これからは現場DXだ」「手に職をつけろ」と称して、若手を「データセンターの物理搬入」「物流倉庫のピッキング」「深夜の光回線工事」へと送り込みます。
契約書には「IT付随業務」と曖昧な記述があり、一度サインすれば最後。
キーボードを叩く業務は無く、重い段ボールやケーブルを運ぶ仕事に従事することになるのです。
② 「デジタル小作人」の出現
コードを書くだけのエンジニアは需要が急減しますが、「ITの素養があり、かつ現場を動かせる人材」の需要は増しています。これに乗ってシステム会社が、ジュニア層を「建設」「設備管理」「スマート○○」などの現場に「IT特化型作業員」として派遣・配置転換するモデルが増えることでしょう。
不運にもキャリアアップできずロースキルエンジニアであったとしても、元々頭が良く一般人よりは遥かにITが身近です。
- データセンターの保守・設営: 物理的なサーバー設置や配線。
- スマート工場・物流: ロボットの挙動制御や現場のトラブルシューティング。
- 建設DX: BIM/CIMの活用や、ドローン・自律走行重機の現場監督。 これらは、従来の「ブルーカラー」と「ホワイトカラー(エンジニア)」の境界線上にあります。
しかしこれらへアサインされるならまだ良いほうで、営業力が低いために「IT特化型作業員」案件すらとれない会社にいるエンジニアには、さらに残酷な運命が待っています。
例えばAIを賢くするためのアノテーション(AIモデルの精度向上のための教師データを作成・修正し続ける作業。AIが出した誤回答の修正や画像へのタグ付け)の現場があります。
もはやエンジニアですらなく、AIという畑を耕すデジタル小作人という表現が適切でしょう。
アンモラルなSES企業は、彼らに最低賃金スレスレの給与しか払わず、なんのスキルにもならない案件にアサインしてマージンを吸い上げ続けるのです。
③ 未経験者やロースキルエンジニアに対する搾取の常態化
「未経験でもITエンジニアに!」などと求人を出し、肉体労働や過酷な現場作業に従事させる企業は昔からありました。応募すると「IT機器の導入・キッティング」という名目で、空調もろくにない物流倉庫での力仕事や、深夜の通信工事現場での交通整理・配線作業に駆り出されます。
昔に比べると現在は収まってきましたが、今回の件でこれが再燃すると思われます。
特にDX名目で全くの他業種へ送り出すケースが増えるでしょう。
データセンターの物理的な配線だけでなく、サーバー運搬、スマート物流倉庫のピッキング、さらには「IT付随業務全般」という名目での建設現場の警備や雑用をさせられます。
実態は、ITの知識を1ミリも使わない現場の補助員で、会社側は「最先端の建設DX案件」などと言い張る。
ライザップが「若くて体力があり、規律を守れる人材」を送り出すのに対し、アンモラルなSESは「スキルのないロースキルエンジニア」を「安価な労働力」として現場に投げ売るのです。
3. 「使い捨てエンジニア」が抱えるスキル的問題
さて、こうした現場に送り込まれるエンジニアには共通点があり、規模の大きな上流工程でしっかり経験をつんだエンジニアとはかけ離れています
彼らの多くは「全体規模数名の案件で運用保守」「レガシー言語(VB系やCOBOLなど)の経験しかない」「コードは少し書けるが、設計ができない」ことが非常に多く、AIを利用するにしても「指示(プロンプト)が抽象的すぎて使い物にならない」「AIが書いたコードを理解できずコピペするだけ」といった、スキルが中途半端なことが多いです。
指示があればAIが動く、なぜその作業が必要かを考えられないエンジニアは、AI以下のコストで買い叩かれてしまいます。汎用的なアーキテクチャや論理的思考を学ばず(環境により学べず)、その会社の独自言語(だいたいC言語ベースが多い)やExcel操作だけに詳しい…。
アンモラルな会社は、こうした「自走できない人材」をあえて再生産し続けるのです。
なぜなら、無知でスキルがない方が、理不尽な配置転換や「スキルにならない案件」への押し込みに対しても、抵抗する術を持たないと思っているからです。
4. 規模が大きな案件でしっかり上流工程経験をつんだエンジニアになろう
アンモラルなSESに対し、エンジニアができることはそのような企業を選ばないことです。
上流工程の経験ができるか、キャリアアップできるのか。
エンジニアになる理由は、人生を豊かに送るためであるはずです。
シニアになっても若手に負けないキャリアを形成するために、それができる企業を選んでください。

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