出社回帰時代の生存戦略。なぜSESは「リモート案件」を用意できないのか

コロナ禍という特殊な期間を経て、日本のIT業界は転換点を迎えています。かつて「当たり前」になったフルリモートワークの波が引き、大手テック企業を中心に「出社回帰」の動きが加速しているのです。

しかし、一方でエンジニア個人のニーズは異なります。
地方移住を果たした方や、通勤時間を自己研鑽や家族との時間に充てたいエンジニアにとって、フルリモートはもはや譲れない条件となっています。
この「企業の出社方針」と「エンジニアのリモート志向」の乖離が深まる中で、多くのエンジニアが直面している問題があります。

それは、「自社の営業が、希望に合うリモート案件を全く持ってこない」ということです。

なぜ、あなたの会社はリモート案件を引っ張ってこれないのか。そこには、近年流行している「高還元SES」の構造が隠されています。


1. 揺り戻す「出社回帰」の波と、消えゆくフルリモート求人

「リモートが当たり前」だった時代は、今明確に終わりを迎えようとしています。
2026年4月から原則週3日出社へ移行したLINEヤフー、週5日出社に踏み切ったアクセンチュアやAWS、DELLなど、象徴的な出来事が相次いでいます。

日本国内においてもその影響は顕著で、IT人材の採用大手「レバテック」の調査(2026年版)によると、フルリモート求人の割合はピーク時に比べて約30%減少しています。
一方で、エンジニアの求人倍率は依然として10倍を超える高水準を維持しており、「案件はあるがフルリモート案件は激減している」という厳しい需給バランスになっています。

  • 求人トレンド: 2026年現在、IT業界全体のリモート実施率は高いものの、その中身は「週2〜3日出社」のハイブリッド型が大半を占めるようになっています。
  • エンジニアの意向: 約半数のエンジニアが「週5日出社になれば転職を検討する」と回答している一方で、市場にあるフルリモート案件という「椅子」の数は、着実に減り続けています。

2. 「高還元SES」の落とし穴。高還元&フルリモート&キャリアアップが成立しにくい構造的理由

こうした「フルリモート案件」が枯渇していく局面において、多くのSESは構造上の弱点を露呈します。
もはや当たり前となっている”高還元SES”は還元率を極限まで高める(=会社の利益を削る)ビジネスモデルであり、以下の「負の連鎖」が生じます。

① 営業1人が「エンジニア50名」を担当することは当たり前なのか

高還元を実現するためには、バックオフィス費用を最小限に抑えなければなりません
多くの高還元SESでは、営業1人が担当するエンジニア数は30名を超え、ひどい場合は50名近くになることもあります。
これでは、エンジニア一人ひとりの「地方移住したい」「上流工程へシフトしたい」といった個別のニーズに向き合う時間はまず存在しません。
当然商流の浅い案件(単価が高い案件)の開拓も営業に時間がないのですから難しくなります。

②「営業不足」が招く選択肢の消失

一般的に、高還元を謳うSES企業においてエンジニアは、「エンジニアの取り分が増えるなら、営業や事務は少ないにこしたことはない」「会社はエンジニアを搾取しているのだから還元率は高くて当然」と好意的に解釈する傾向があります。
しかし、これが「リモート案件・キャリアアップできる案件への参画機会」の消失に直結します。

数百人規模のエンジニアを抱えるSES企業であっても、営業担当がわずか5名、あるいは50名以下の組織では営業が1〜2名しかいないケースは珍しくありません。
この状態では、営業一人ひとりがエンジニア一人にかけることのできる工数は極めて限定的になります。

未来において年収を上げていくには、「エンジニアのキャリアプランに沿った案件の開拓、アサイン」が絶対に必要です。
しかし、リソースが足りない営業が行うのは、「今、手元にある(付き合いの長い企業からの)案件に、空いているエンジニアを機械的に流し込む」作業です。

フルリモートかつスキルアップにつながる「優良案件」は、市場で奪い合いになっています。
それらを勝ち取るには、クライアントへの深い食い込みや、新規の商流開拓といった「泥臭い営業努力」が不可欠です。
営業リソースをコストとして削り捨てた会社に、そんな体力は残っていません。

③ 「受託」ではないSESの限界

そもそもSESは受託ではなく、クライアントのプロジェクトに参画する形態です。
自社で勤務環境をコントロールできる「受託(請負)」や「自社開発」と違い、出社かリモートかを決める決定権は100%クライアント側にあります。
※自社開発・受託のリスクは契約案件を選ぶ権利がないことですから、エンジニアはどちらかを選ばねばなりません

営業リソースが枯渇している会社では、クライアントが出社回帰を決めた際、「代わりのリモート案件を探してくる」という交渉や新規開拓ができません。
結局、「今の現場で我慢して出社するか、会社を辞めるか」の二択をエンジニアに突きつけることになります。

④ キャリア形成を阻む「横流し営業」

営業利益が少ない状態では、営業担当者の給与も低く「商流を上げるエンド開拓活動」「キャリアアップできる難易度の高い案件を調整する」といった高度なスキルを求めることができません。
※多くのSES営業は次の転職もSES営業となります。本来営業としてあるべきスキル(顧客の課題解決に寄与する能力)は多くのSESでは身につかないのです。そんな営業しかいない会社のエンジニアがキャリアアップできる可能性は低いと言えます。

営業は「右から左へ」エンジニアを流すだけの作業に終始し、エンジニアは年単位でのスキルアップやキャリア構築から取り残されていきます。


3. SESでは構造的にフルリモート確約がほぼ不可能な理由

もう一つ、フルリモート確約を謳い内定受諾の背中を押すSES企業の存在がありますが、これはほぼ不可能です。
フルリモート確約とは一生フルリモートを約束するということですが、SESの仕組上無理なことです。

SESは自社開発や受託開発(請負)とは異なり、エンジニアはクライアントの現場環境に準じる側面が強いビジネスです。

つまり、自社が「フルリモートを推奨しています」と言ったところで、クライアント企業が「セキュリティの観点から出社が必要」「チームビルディングのために週3日は顔を合わせたい」と決定すれば、SES企業側にそれを拒否する強い権限はありません。

本当にフルリモートを「構造的に」保証できるのは、「自社開発」の企業だけです。受託でも客先環境で対応してほしい依頼はどうしてもあります。
※自社開発企業がフルリモートができなくなるのでは、マーケティングに失敗し倒産したとき
※しかし”自社開発に参画できるのだから出社してほしい”というのも昨今の流れです

高還元SESという形態でありながら、営業リソースも割かずに「フルリモート確約」を謳うのは、市場環境が変われば即座に崩壊する、砂上の楼閣に過ぎないのです


4. 営業1人に対するエンジニア数の「適正値」

では、エンジニアが納得できるキャリアを歩むために選ぶべき会社はどのようなものでしょうか。

多くのSES企業では、営業1人が50名近くのエンジニアを担当しています。
これでは「顔と名前が一致し、現在のスキルと3年後の目標を把握する」ことすら難しいでしょう。
結果として、エンジニアは「単なる稼働枠(ヘッドカウント)」として扱われ、案件の質は二の次になります。

一方で、イズムのようなキャリアアップに特化したSESでは、営業一人あたりの担当エンジニア数を10名程度に抑えています。
なぜそこまで絞る必要があるのか。それは、一人のエンジニアに対して以下のような工数が発生するからです。

  1. 案件開拓: 商流の浅い案件、リモートができる案件の開拓を常に行う必要があります。
  2. スキルマッチング: 単なる言語の一致だけでなく、エンジニアが次に習得したい技術スタックが含まれているかの確認。
  3. 商談と単価交渉: エンジニアの市場価値を正しく伝え、単価を上げつつ、リモート日数の調整をクライアントと握る。
  4. 参画後のフォロー: スキルアップに繋がっているか、現場の負荷が高すぎないかの定期的なヒアリング。

これらを丁寧に行うには、営業一人につき10名が限界です。
還元率を優先して営業利益を削りすぎた会社にはそんな体力はありません。


5. 「待機」というリスクと、ライフイベントへの影響

SES業界で当たり前のように語られる「待機による年収減」。
これも、エンジニアの人生を長期的に見れば極めて危険な要素です。

還元率を高め、会社の利益(内部留保)を極限まで減らしている企業は、エンジニアが案件に入っていない期間の給与を保証する余裕がありません。その結果、案件が途切れた瞬間に収入が激減し、住宅ローンの支払いや、結婚・出産・教育といった重要なライフイベントを安心して迎えることができなくなります。

「高還元」という言葉の裏側には、「会社が負うべきリスクをエンジニア個人に転嫁している」という側面があることを忘れてはいけません。

イズムでは待機が理由の年収減はいたしません。


6. 何を捨て、何を得るか

リモートワーク、キャリアアップ、そして高い還元率(給料)。 これら三つをすべて同時に叶えられる会社は、SES業界においてほぼ皆無と言っていいでしょう。

  • 「還元率」に重きを置けば、 営業サポートや教育体制、そして待機時の保障が失われます。
  • 「リモート」に重きを置けば、 案件の選択肢が狭まり、キャリアが停滞するリスクを受け入れなければならないかもしれません。
  • 「キャリアアップ」に重きを置けば、 それを実現するため会社は「優秀な営業」への投資が必要となり、高還元SESでは難しくなります。

考えなければならないのは、「80%を超える還元率の高さの背景にあるものはなにか」という問い。
そして「未来を見据えた最適な行動は何か」です。

出社回帰の嵐が吹き荒れる今だからこそ、目先の数字だけでなく自分のキャリアを共に作り上げる「営業という名のパートナー」にどれだけのリソースを割いている会社なのか。
そこを見極めることが、エンジニアとしての未来においてキャリアアップを果たすために必要ではないでしょうか。

あなたは、100人のうちの1人として言われたままに会社にアサインされる道を選びますか?
それとも、10人のうちの1人として、会社がとことんキャリアに向き合ってくれる道を選びますか?

世界経済の動向とIT市場の相克:経済が影響を与えるエンジニアの「選別」と「淘汰」

現在、世界経済は極めて不安定な地政学リスクの渦中にあります。2026年に入り、中東情勢はさらなる緊張状態を迎え、ホルムズ海峡の通航リスクが現実味を帯びる中で、WTI原油先物価格は一時100ドル/バレルを超える水準にまで達 […]

エンジニアのキャリアを作る戦略的思考。PL脳・BS脳、あなたはどっち?

IT業界という変化の激しい荒波の中で、エンジニアとして生き残り、さらに望むキャリアを手に入れるためには「技術の習得」だけでは不十分です。「技術の習得」の重要性はライバルたちも気づいています。自分自身を一つの「会社(又は国 […]

「ITバブル」の裏側で進む倒産件数過去最多ペース —— なぜ案件があるのに倒産するのか?

1. 数字が示す「IT業界の二極化」 今、日本のソフトウェア業界は奇妙な「パラドックス」に直面しています。DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流、AI技術の爆発的普及、そしてあらゆる産業でのIT投資加速。市場は紛 […]

Comments are closed